シュヴァルの理想宮

(2012年5月13日 記事)

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フェルディナン・シュバルという巨人 

僕が尊敬する人にフェルディナン・シュバル(1836-1924)という人がいます。この人は「シュヴァルの理想宮」の制作者として知られている人です。
 この「シュヴァルの理想宮」はフランスのリヨンから車で1時間ぐらいのところにあるオートリーヴという小さな田舎町にあります。僕は以前からフランスに行ったら、この建物を絶対に見てみたいと思っていました。その願いが叶ったのがちょうど2年前のことです。

 目の前で見ると、写真とは比べ物にならない大迫力です。高さは10メートルにもなります。この建物をシュヴァルさんは、たった一人で33年を費やして創作したのですから驚きです。

 建造のきっかけの話も大変興味深いです。
 郵便配達夫であるシュヴァルさんは1日30キロにも及ぶ配達エリアを徒歩で回っていました。元々空想癖のある彼にとっては様々な考えを巡らせながら歩くのは苦ではなかったそうです。ある時、歩いていると道でシュヴァルさんは石につまずきます。良く見ると、それは不思議な形をしている石だったようで、その石からシュヴァルさんは理想とする宮殿のイメージを膨らませたのです。

 建物の2階部分のテラスにこの「つまずいた石」が大切に安置されていました。
 写真中央にあるのがそれです。やはり、不思議な形をしています。

 シュヴァルさんは仕事を終えると、手押し車で石を集め毎日、毎日、石を積み上げました。あまりにもの没頭ぶりに、村人たちからは「変人が奇妙な建物を作っている」と言われ続けたそうです。それでも彼は黙々と取り憑かれたように作業していたと伝えられています。

 誰にも理解されず、孤独のうちにただひたすらに創作への執念に向かっていたシュヴァルさんの姿はどういうものだったのでしょうか。きっと生き生きとしていたに違いありません。
 自分が取りかかっている創造がどれだけ凄いものになるかというイメージがすでにあったのではないでしょうか。建物のいたるところに彼のメッセージが書き込まれています。

 『夢・・それはこの宮殿は巨人が作ったと思われることだ。それは自分への贈り物だ。人間業を超えたこの仕事が後の成功へと繋がる』
 『人生はすきま風が通るような早さだ。だが、思想は永遠に残る』

 これらの文章から、シュヴァルさんの完成に向けた熱意、決意のようなものが伺えます。
 理想宮が出来上がってみると、多くの人が関心を寄せるようになりました。ピカソもその一人で感激し絶賛したそうです。1963年になるとフランスの文化財として登録され、今では村のシンボルとなっています。

 保存管理されていますが、理想宮には上がることも出来ます。
 ありがとうシュヴァルさん。感謝!!

 細部にわたって作り込まれている。何時間でも何日見ていても飽きない。
 永遠に続くクリエイション世界への陶酔。
 創造したジュヴァルさんはきっと空想も巡らし、毎日楽しかったんだろう。

 死んだら、この宮殿に埋葬してもらおうと思っていたシュヴァルさんでしたが、存命中に観光地となってしまったこともあって、今度は11年かけて自らの墓を作りました。

 きっと、シュヴァルさんのことですから、
 あの世でも自分のために何万年もかかる神殿を作っているかもしれないと僕は想像しています。どんなものになっているのか空想するだけでワクワクします。

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