2億年前の粘土
北海道北部の広大な牧草地帯。ここには約4万5千年前から大陸より日本海を越えて飛来している「黄砂」の堆積した粘土があります。この粘土は科学的に年代測定したところ2億年前のものだと分かりました。太古の大地が風で飛んでやって来たのです。ダイナミックな地球の息吹によって自然が作り出した奇跡の粘土と言えるでしょう。この粘土の粒子は細かく、粘りとコシがあり、薄くて強度のあるうつわを作る事が出来ます。
「大地」に対しての敬意と「自然」への謙虚な気持ちを忘れ無いようにシャベルで手掘りしています。
シンプルで使いやすいかたち
昔ながらの機能的なシンプルなかたちを基本としています。ロクロは蹴りロクロを中心に使用して、ゆったりとした自然なフォルムを生かすように心がけています。
日々の暮らしの料理を盛った時に見栄えするようにうつわの形状、寸法に気を配っています。
自然の風合い
うつわの表面のガラス質の皮膜(釉薬)は古来から伝わる「木灰」を使った「灰釉」の調合です。
この木灰は「ナラ」「シラカバ」「イタヤカエデ」など身近な地域で伐採された広葉樹を割って、1年かけて乾燥させたものを冬に薪ストーブで燃やして出来たものです。
大量な樹木から僅かな量しか採れないので、天然の木灰はその手間を考えると大変貴重です。
しっとりとした表面の風合いは「木灰」ならではのものです。
樹木を伐採する場所や季節によってその灰の性質も微妙に異なり、一個一個変化に富んだ表情をうつわに与えています。白樺ホワイトや白樺刷毛目など、北海道ならではのシリーズもあります。
風と大地の色
黄砂に含まれる鉄分を利用して独自に調合し、粉引(こひき)の技法を駆使して出来上がったオリジナルの技法が「黄粉引」です。
本来「粉引」とは乳白色のぽってりとした素朴な風合いのものをいうので「黄粉引」というのは造語となります。
「黄色」は人の心を温かく明るく元気にする色です。風と大地が作り出した黄粉引のうつわは、お料理を優しく包み込み、心も体も元気にします。
粘土素地と、その上に塗る泥との収縮の違いから、表面には細かに縮れたヒビが入ります。時代を経たもののような不思議な雰囲気を醸しています。
海が彩る鮮やかな赤
黄粉引のうつわの底部の赤い色彩は「ホタテ貝」「カキ貝」など、北海道を取り巻く海が育んだ貝殻から生まれています。
貝殻にうつわを乗せたり、添えて焼成することで、この鮮やかな赤い発色は得られます。黄粉引の黄色と貝殻の赤のコントラストが調和します。
風と大地、そして海が加わることで、北海道の要素を盛り込んだ「どこにも無い独自のうつわ」となっています。
北海道ならではの日本のやきもの
日本の焼き物文化は1万5千年前の縄文時代から始まりました。これは世界最古のことです。
当時は青森や北海道南部の地域に大きな集落が存在し、焼き物の制作技術は東北地方から日本列島を南下して伝えられました。
その後、大陸から稲作が伝来して弥生時代になると、高度な焼き物の焼成技術も伝わり、今度は逆に、焼き物の制作技術は北上して伝えられました。
日本各地では、特色のある焼き物の生産が次第に増えますが、北海道では縄文時代の後に、続縄文時代、擦文時代を経て、アイヌ文化時代(鎌倉時代ごろ)になると、アイヌは交易で丈夫な陶器や鉄器を入手できるようになり、陶器の生産は明治時代まで行われることはありませんでした。
日本人が北海道の開拓で沢山入るようになってからは、陶器の生産が始まります。北海道は日本の陶芸史上では1万5千年前の出発点であり、最終到達地点でもあります。
北海道には擦文土器やオホーツク人が作ったモヨロ土器、アイヌの伝統文化など、長い年月をかけて育まれた、独自の物がたくさんあります。1万5千年の時をかけてブーメランのように戻ってきた日本の焼き物文化をしっかり受け取って、北海道だからこそ出来る「日本のやきもの」を作ってみたい。
それが私の挑戦です。