最後に思い出を窯に詰めて

 2000年から13年間使い込んできた窯のひとつが、とうとうその役目を終えた。
この窯との出合いは、思いもかけないものだった。
うつわを卸していた業者さんに請求書を持って行ったら、
なんと、前日に夜逃げしてしまったという事だった。
直前まで注文されたものを納品し続けていたので、突然の事にビックリした。
入金を期待していたので、僕は途方に暮れた。

店員の方達に事情を聞くと、彼女等にも給料がしばらく支払われていないという始末。
この店舗には陶芸材料も販売されており、材料や器具はいくつか残っていた。店員の方達に、これらを販売して、自分たちの給料や債権者の支払いにいくらか回したいと相談された。債権者となった人達が何人も訪れるので、切実な願いだ。

取り残されてしまった店員さんの事情も知って、陶芸関係の友人と共同で残った材料や機材を出来るだけ購入させてもらった。
この時に、入手した機材のひとつがこの中古の窯だった。

以前は店舗で陶芸教室などをしていたので、活用していたようだが、老朽化して来たために使われなくなって、倉庫の中にひっそりと眠っていたものだった。
古びたこの窯が「僕も連れて行って!まだ、働ける」と言っている気がしたので、とりあえず購入した。

それまで、薪、ガス、灯油の窯を使っていたので、当初は電気の窯を扱うのは初めてで、配線や電気の契約料金などで思わぬ出費が続いて戸惑ったが、慣れると扱い易い窯で温度上昇をプログラム出来るように改造するなどして重宝するものとなった。

ただ、使い込まれた上に使い込んで行くので電熱線はよく切れた。しばしば焼成中のうつわをダメにしてしてしまった事もあったが、何とか修理をしてこれまで使っていた。しかし、とうとう発熱線の寿命はとっくに過ぎ、窯には隙間が目立って来た。おまけに、窯の蓋は劣化して今にも落ちてしまいそうだ。

全面改修してみようかとおもって試算したが、かなりの時間と費用がかかるので諦めた。
今後は分解して、鉄枠や耐火物は資材として活用される。

ふと窯に取り付けられたプレートを見ると製造年月日1986年とあった。
僕が16歳の時に出来た窯だ。ちょうどその頃は高校のクラブ活動で陶芸を始めたばかりの時期に重なる。出合いとは不思議な縁だ。
今まで多くの作品を焼いてくれてありがとう。
ご苦労様でした。