うつわの生まれるところ

 ここが、僕のうつわの故郷です。北海道北部の広大な牧草地。この粘土を平成5年に北海道に移り住んでから18年間試行錯誤で使っています。

 使い始めの頃は、この粘土は粒子が細かくて乾燥した時の収縮が大きかったり、鉄分が多くて耐火度は低いので、うつわには不向きな粘土だと失敗を重ねる度に感じていました。いろいろ掘る場所を3年ぐらいかけて変えてみましたが、この地域の地質はそう変わらず、なかなか僕が理想とする粘土に出会う事が出来ませんでした。

 「せっかく北海道にいるのだから、ここでしか作れないものを作ってみたい」僕はそう思っていました。だから、地元の粘土を使う事をなかなかあきらめられませんでした。しかし、なかなか上手く行かないので「もう、この粘土に見切りをつけるべきか」とも考えるようになっていました。しかしそうすると「自分がここにいる意味って何だろう」という疑問にもぶち当たってしまい、苦悩する日々が続きました。そんな時、「北海道立地質研究所の八幡さん」という方が、この地域の粘土について論文を発表しているという事を知りました。早速、八幡さんを訪ねたところ、思わぬ事実を聞きました。

 なんと、この粘土は約4万5千年前から貿易風に乗って、大陸より日本海を越えて飛来している「黄砂」が堆積したものだと言うのです。そして、年代を測定すると2億年前のものと判明したと説明してくれました。「黄砂」であるという証明は、この粘土に含まれる鉱物の「イライト」という成分が、元々この地域には無いものだそうで、他の地域から運ばれて来た事を裏付けているのだそうです。

 ダイナミックな地球の息吹によって出来た粘土であるという事実を知ってからというもの、僕はこの粘土に対する愛情をより深めました。

 その後も試行錯誤を重ねて、いろいろ分かって来た事は、、、

・粘土を一度天日で乾燥させてから細かく粉末にしてから練ること。
・収縮を緩和させるために、耐火度のある砂を混ぜること。
・粘土の微粒子を強制的に密着させること。(これは人力では出来ないので、真空状態にして粘土を練る機械を導入)
・高温で焼かなければならない作品には向かないので、この粘土にとっての適正な焼成温度にあわせた作風にすること。

 これらの工夫を繰り返し、ようやく8年の歳月をかけて、この粘土を生かす方法を見つける事が出来ました。どんな最悪なものでも、あきらめずに工夫する事で最高なものになり得るのだという事を知りました。この先も工夫をして行きます。

 粘土堀はとっても重労働です。土地の所有者の方はとても親切で、見かねて「自前のパワーシャベル(一回の動作で1トン掘れる機械)で掘ってあげようか」と言ってくれるのですが、「この大地」に対しての愛情、「自然」への謙虚な気持ちを忘れないでいたいので、「自分で作るものぐらいは自分の手で」と思ってシャベルで掘っています。大空のしたで、体力の限界と戦いながら黙々と掘り続けるのは、結構気持ちがいいものです。

 今は牧草地もまだ雪原です。日差しが強くなって雪が溶け、クロッカスが咲き乱れ、ヒバリが空高く鳴く「春の草原」になるのが待ち遠しい。

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