子と親と芸術

(2013年1月15日 記事)

 年末の片付けで、思い出深いものが出てきた。芸術家佐々木卓也さん(1975~)が描いた我が家族の肖像だ。
 作品には制作年の記載がないが、長女が描かれてないことや、着ている服の感じから中央の長男が1歳の夏に描かれていることが推察できる。その長男はいま14歳だから1999年8月の作と思われる。
 この絵を佐々木さんは、目の前であっという間に描いてくれた。作品からは僕たち家族の当時の雰囲気が生々しく伝わって来る。

『佐々木卓也作「工藤家の肖像」1999年 紙、鉛筆、色鉛筆 297×210(mm)』

 佐々木 さんは小さい頃から、見たものを圧倒的なスピードで表現できる才能を持っており、呼吸するかのように作品を作り続け、その制作量は夥しい。特に粘土による造形力は圧巻で、大量の粘土の塊から動物や人物像などを瞬く間に形作ってしまう。一度見たものは記憶として残り続けるので、いつでもどこでも、鮮明な記憶の中から引き出して制作出来てしまうようだ。
 1995年に全日本アマチュア陶芸コンテストで入賞、その翌年には若手陶芸家の憧れのINAXギャラリー(東京)で初個展を開催。池田満寿夫さんや現代陶芸で知られている西村陽平さんなどに、早くからその才能を注目されている。近年では2010年に栃木県立美術館での「イノセンス」展に草間彌生さん等と共に作品を紹介された。

 佐々木さんとは15年にも及ぶ付き合いだが、深くお話ししたことがない。彼は会話が極端に苦手なので、対外的なサポートはお母様がしている。生活を共にしているだけに、作品がいつ、何処での記憶から成り立っているのかなど細かく把握していて、作品の背景を知ることが出来る。佐々木さんにとっては、最大の理解者であり、支援者だ。
 しかし、一般的に親が支援者となることは難しい。それは、親子の関係では影響力があまりにも強く、才能を妨げることもあるからだ。その事を理解した上で親が支援者となるには忍耐と根気が必要となるだろう。その辺りをお母様にそれとなく聞いてみると、「頑固なので私の言うことを聞かないのよ」と言って笑っておられた。
 他者からの影響を受けないという点で、佐々木卓也さんはアール・ブリュットに近い存在とも言えるようだ。近年、「頑固」を貫くのは大変難しい。社会との折り合いから何事も「許容」してしまう。しかし佐々木さんは「頑固」というスタンスで、作品の独創性を高めるととともに、その制作スタイルから多くのファンや協力者を得ている。無論、それは母親のサポートがあってのことだ。
 見つけた肖像を見て、自分は父親として我が子たちの「頑固」を何処まで延ばすことが出来るものか、それを問われている気がした。

(あさひかわ新聞 工藤和彦の「アールブリュットな日々」より 2013年1月15日掲載)

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